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2009年12月31日 (木)

旅のアルバム

ピアノを習ったことはなかった。
音大に入るのに必要だ、と聴いて1曲だけ用意した。
とは言っても子供向けのソナタが精いっぱい。

大学に入ってたくさんの曲を知った。
管弦楽曲、吹奏楽、室内楽、オペラ、器楽曲…etc.
中でも室内楽や器楽曲は音源ではなかなか聴くことのできない、珠玉のような小曲に幾つも出会った。

音楽との出合いは人との出会いと同じだ。
時には離れ、忘れてしまうときもある。
でも、本当は一つも忘れたくない。
離れたくない。

会えなくなった人たちにまるで執着するかのように、僕はまたいつかあのころのような付き合いができると願ってやまない。
そして新しい出会いも楽しみでならない。
矛盾はしないと思う。
僕の中では。

大学の時に偶然一つの中古楽譜を手にした。
"ALBUM DE VIAJE" ... J.Turina

スペインのホアキン・トゥリーナの作品。
この作家の曲は1曲だけ「幻想舞曲集」というオケ曲を知っていた。
高揚~夢~饗宴の3曲からなる交響詩のような描写的な音楽。
なぜか強く惹かれてスコアを注文したら「レートの変動が激しくお値段がはっきりしません。船便でも5~6千円かと思います」とのこと。
高校生の僕には結構きつい出費だったのだが…
届いたという連絡を受け楽器屋に行くと値段はなんと900円!
理由は分からないが…
ボロボロの粗末な紙に印刷され、ミスプリも多い。
でも、何とも言えない興奮を覚えたのを覚えている。

そのトゥリーナのピアノ曲。
題名の意味も分からず、なんとなく購入した。
音源も見つからず作曲の経緯も分からない。
でも、弾けないながらも何とか自分で音にしてみて、拙いからこそ1音1音をじっくり聴くことができた。
題名の意味は「旅のアルバム」だった。
実はこの作曲家の代表作の一つで、ピアニストには結構知られている作品だったのだが…

まだ踏みも見ない土地の事を想像しながらたどたどしく弾いたのは20年以上も前。
それからも時々、懐かしい友人に会うように、引っ張り出しては弾いていた。
本当に、まったく、恥ずかしいぐらいに弾けなかった僕もこの20年で少しずつ進歩していたようで。
数年おきに弾くたびに、自分の技術の進歩と音楽の変化をこの曲の中に見出してきた。

2009年の暮れにも弾いた。
ああ、僕もここまで来たんだ。
昔の自分が遠く霞んでいる。
あのころと違った風景がピアノから湧きあがってくる。

音楽も人生も旅だ。
まだまだ全然思ったように弾けないけれど、いつか弾いたときに僕はまた違う景色を見るだろう。
今とは違うけれど、どこか懐かしい風景を。

そうやってずっと一緒に旅をする。
いろんな曲と、
いろんな人と。

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