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2010年2月23日 (火)

迷走するサラバンド その3

さて、「迷走するサラバンド」を読んでいます。

4分半ほどのこの曲は、あえてシンプルな素材(メロディや和声のフィギュア)を使って簡素に、そしてオーソドックスな手法を用いることによって、一つの素材「サラバンド」が他の要素と融合する様が明瞭に映し出されています。

《短い序奏~急速な主部①~緩やかな中間部~急速な主部②~短い後奏》の所謂三部形式と見ることができます。
書き込まれた内容の濃さと、急速な展開から考えてもう少し細かく構造を書き出してみると、《序奏~主部①(A-B-A)~中間部(C-C)~主部②(B’-A’)~後奏》、となります。
それぞれのパーツ間には関係性と融合と影響が見られますが、非常に簡潔な構造です。主部の中で「A」に戻るときには必ずテンポアップを含んだ発展をしますし、大楽節の間には必ず経過句を含みます。また冒頭の二重奏は主部②の前にも楽器を換えて模倣します。特に、主部①の最後に現れる中間部への経過句(Grave)は特別な意味を持っている、と言えます。主部②の最後にも現れ「Epilogue」の役割も担っていますが、主部との関連性に注目すると最後の(Grave)は後奏とは呼べないのかもしれません。だとするとこの曲の後奏は最後のピッコロの一小節だけ、という事になります。この重要なフィギュアは序奏で提示された後様々な荒波をくぐりぬけてここまでたどり着きました。そして、きっとまだ続いていくのです。
実際にはGraveに入ると、序奏で提示された素材がすぐ絡み合ってきますから、この部分を「後奏」とみて差支えはないと思います。
しかし、もう一つ違った見方をすると、主部②はそれ自体が「展開部」と言えると思うのです。ソナタ形式等の展開部では主題の扱いのほかにも調性によく特徴が現れます。今日そう言ったセオリーはもちろん絶対的規範となるわけではないのですが、「なぜそれが生まれたのか?」という問いへの答えを探すときそこにはやはり必然ともいえるものを感じることがあるのも事実です。
さて、展開部でよくみられる調性の特徴は「近親調への転調」です。古典的なソナタで一番よく見られるのは五度上の調、つまり属調への転調でしょう。この主部②は主部①における「B」と言える部分から始まりますのでここでは明確な調性を限定することはあまり意味がありません。が、「A’」にははっきりとg mollで戻ってきます。これは主部①とまったく同じ調です。着目すべきはGraveです。主部①でのGraveは支配音“D”によるC.T.(Chord Theme)(D7b5…"b"は“♭”に読み替えて下さい)でしたが、ここでは支配音“A♭”によるC.T. (Ab7b5)です。つまりは主部①に対して五度上の関係なのです。それも「減五度」。作曲者は明らかに調の関係性を浮き彫りにしています。それが何を意味するのか?そこに何を見出すのか?「終焉と蘇生」という表題の裏に、それとはまた別の何かが脈打っているような気がしてならないのです。

まあ、それはそれとして、中間部以降を読んでみましょう。

(F)~
直前の和音はCb11。構成音は下からDes-F-As-(D)-Gです。(Dは省略されています)。Gは本来ならGesなのですが上方に変位されています。この和音はもちろんドミナントとして機能していますので通常ならGes(或いはFis)に解決しますがちょっと変化球でEs durに解決します。特別な音“G”を保留して、また高音の上行形ではFisに導音的役割を匂わせて“G音“を印象付けています。メロディラインはすぐ“D”に移行しますが、この音、サラバンドのリズムアクセントの位置である二拍目ですから印象は強くなります。そしてEs durの主和音Ebのメジャーセブンス(EbM7)です。とってもメロウに美しく響きます。コード進行はEbM7-Abm6/Eb-Eb-(Eb#5)が最初の4小節で、後半4小節はEbM7-Abm6/Eb-Ebです。つまり和音から見るespressivoの頂点はどちらも2小節目(。IV+6)。メロディラインは1小節目にアクセントをつけるべく作られていますから自然に融合させるも良し、少し強調するも良し。でも、和音は常に主音がいますからあまりおおげさな抑揚は違和感を生んでしまうでしょうね。ちなみにこの二つの小楽節をつなぐのがEb#5、つまり主和音のオーギュメントです。その特異音(Eup. Fag.)を上手に使えばこの4小節の繰り返しが、意味のある8小節フレーズへと完成するでしょう。単なる繰り返しにせず8小節のフレーズをきちんと作るのは常識。だけど、日本人が「楽譜から読み取れない」とよく指摘される部分でもあります。それにしてもオブリガードとメロディとの対比はいろんな観点(リズムの融合、和声の変遷、音程によるメロディラインのアナリーゼ等々…)から見てこんなシンプルなのに完璧!見習いたいものです。

(G)~
先ほどこの曲の構造について触れた時、中間部は(C-C)としか書きませんでしたが、もっと細かく言うと(F)~がCの前半、(G)~がCの後半、(H)~がC’の前半、(I)~がC’の後半。こんなに細かく分解する必要ももないんだけれど細かく練習番号が付いているのでせっかくだから細かく見ちゃいます。
ここからはCの後半と言う事になりますが、さらに初めの4小節と続く8小節とで2分割。初めの4小節はC-F-B-Ebと、V-Iの連続、5度進行です。和音はCm7-Fm7-Bbm7-Ebで一般的な進行です…と思いきやちょっといたずらあり。2・4小節目では第7音が後倚音して6の和音になります。で、この音は次の先取りや経過音になっていて、言わば転調の連続を柔らかく繋いでいます。古いシャンソンの匂いがして素敵ですよね。導音が無い分なんだか素朴な感じがします。違う時代のものが同時にそこにあるような、古くて新しい不思議な感覚の部分です。
続く8小節間もなかなか面白いところです。メロディは2小節、そしてもう2小節、抑揚を掛け合いながら進展して次の2小節ではオブリガードも合体して一緒にCresc.に転じて、最後の2小節ではドミナントを形成してEs durへと圧倒的な全奏を作り上げています。低音部の音形にはヘミオラの形を見ることができますが和声的にもリズム的にもヘミオラは形成されていません。が、強調することでそれらしい効果は上がると思います。ただ、最後の2小節ではBbm/Dbの倚音(A-Bb)の解決がヘミオラになっていてそのアプローチには一役買うかもしれません。最後の2小節、ベースはヘミオラではなくなっていますが、1小節目で前述の倚音が、2小節目ではベースのサラバンドのリズムが、それぞれ結局ヘミオラの位置にアクセントを与えてヘミオラを形成してると言えます。でも、それよりもサラバンドのメロディの掛け合いとしてこの8小節を作り上げるほうがシンプルで効果的だと思います。ちょっとこの8小節の和音を簡略化して書いてみましょう。
Fig10_2
1小節~2小節、3~4、5~6は同じ進行です。主和音から見る第5音上方変位の増和音を経過和音として(曲中ではメロディの構成音ですが)同主短和音へ。一種の刺繍和音です。そして6の音(上記譜には書いてありませんが…)を経過音として短3度上にあがって同じ動きを続けます。主音はEs-Ges-Aと変化していきますがその音程は短3度。その進行に減3和音(ディミニッシュ)の響きを見つけることもできます。6小節目の最後には偶成的にD7を経過してBbm/Dbへ、そしてAbm+6(。IV+6)へ到達します。この六の和音、中間部の大きな特徴ですね。(上記譜で7・8小節目に表示されているコードネームは演奏上は間違いではありませんが機能の上からは違います)
小さな抑揚を繰り返し強奏の(H)に向かいますが、直情短絡に繰り返すのはタブー。全体としてのsempre cresc.を損なわないように効果をあげるべきですね。ストレットのかけ具合によって(H)の前の“タメ”の量が変わります。ストレットの量を増やせばその分そこには“タメ”が生じるわけです。このストレットなく(H)の前を単にrit.するのは愚の骨頂。

(H)~
(F)と同じ構成ですが決定的に違うのはそのヴォリューム。2・4小節目も(F)では持続音だった低音が和音のルートを演奏していますのでより一層アクセント感が強調されます。ここで考えなければいけないのが作曲家の意図。(F)も同じですが、四小節のカデンツを二つ組み合わせたのがこの8小節。8小節全体として(F)との対比と中間部の頂点を印象付けなければなりません。だから、3・4小節目ではdim.はするものの、全体の中の抑揚として処理するのが普通。ですが楽譜からは4小節目のはっきりとしたdim.と準備のないf(フォルテ)による4小節フレーズの強調が見てとれます。fで始まり、cresc.してdim.して再度fにて…と言うわけではないようです。しかし音楽はこの8小節が一つの頂点としての構成を持っています。作曲者の意図を表現してなおかつ全体の音楽を仕上げるには思ったよりもオーケストラの技量が必要です。きついアタックと減衰音による音塊をいくらぶつけてもこの部分は成立しないでしょう。

(I)~
一旦波が引いた後一気にクライマックスです。低音はcesですがEb aug/Cbととらえて先に進みます。2小節目はAbm+6でサブドミナント。この和音(。IV+6)はセオリーでは直接主和音へ解決します(ここまでずーっとそうでした)ので、ここでも3小節目で今まで通り解決!…とは行かず所謂「解決の引き延ばし」が劇的に描かれます。すなわち低音は主音に解決しているのに上声はAbm+46(。IV+4+6)にわずかに(Es-D)変化します。この“しぶろく”の和音、その前の六の和音と同じくサブドミナントです。が、ここはドミナント「根音省略第9音下方変位の属9の和音(Bb b9)」へ進んだ、と見たほうがより主和音への解決がはっきり感じられます。バッハのフーガの終結部などにも時折見られる手法ですね。ということは自ずから音楽の表現は決まります。しかし、それに反する強弱が書き込まれています。ということは通常よりも強烈な印象が現れる!と言うことです。と言うことは!?…全体を俯瞰で見ての、或いは他の部分との関係性から見ての、意味付けと表現が必ずこの曲の面白さをさらに引き出すことでしょう。
限定進行音をきれいに扱う事でより一層サウンド感が上がれば、音量に頼らずに、続く2重奏が対比されるでしょうね。このサラバンドの主題はここまでの音楽を受けて変容されています。フレーズが4小節目に入るのを利用して主部②へ突入します。

つづく…

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コメント

ま、難しい話はそれぐらいにして..、

↓こんなので遊びましょうよ。
[iPhoneで制御する4ローターARヘリ]
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1002/24/news043.html

↓こっちでも良いです。
[ミレニアムファルコン]
http://www.gizmodo.jp/2010/02/post_6764.html

投稿: kenshow | 2010年2月25日 (木) 02時16分

惹かれる~~
ミレニアム・ファルコンもいいけど、ARヘリ!!
出たら即買い間違いナシ!
でも、魔法の呪文が聞こえてきそう…
「それって必要なものなの…?」

ところで、また温泉行こうぜ!

投稿: YOU | 2010年3月 8日 (月) 08時48分

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