みかこさん
青春は今も続いていて、未来への夢も希望も、過ぎた日への懐古と後悔も、同じように続いている。
そうは思っていても、時は容赦なく歩き続け、未来への残り時間と、過去の積み重なる時の記憶は、反比例してその差を広げていく。
まあそれはわかっているし、それでも未来は洋々としているし、それでいて過去も甘酸っぱく自分の中にある。
「みかこさん」を読む。
何度読んでも胸が締め付けられる。
誰にでも共感してもらえる作品ではない。
ありふれた内容なのかも知れない。
でも、忘れてはいけない、忘れたくない、感性をそこに感じて、
いつもちょっぴり立ち止まる。
焦りと不安と、逃避と現実と。
二度と来ない季節への切ない想い。
手からこぼれ落ちる砂のような時と想いの儚さ。
目の前の今を無邪気な残酷さで切り捨てていく、若さの疾走。
忘れたくない今と、霧の中の未来との間で揺れ動く自分の心。
今見上げた月と、明日昇る月を、比べることなく同時に感じることのできる自由な感性。
誰にも見えないところに自分を刻む、狂おしいほどの自己顕示。
知りたくなかったのに気付いてしまった、あの人の視線の先。
あんなに暑かった夏の日の校庭、
人でむせ返った昇降口、
笑い声のこだまする階段の踊り場、
いつも時の運びは無慈悲で残酷に見えて、
その実とても優しい。
過ぎて行く昨日を、物語へと変えていく。
一人座って夕日を眺めた、教室の窓際
座り慣れた木とパイプの椅子。
すべりの悪い重い鉄の扉。
日常が想い出へと姿を変える。
幾度も経験するうちにそれすら日常になる。
歩きなれた歩道
ポプラの木漏れ日が、春には眩しく揺れ、夏には影を縫い付け、秋には刻々色を移ろい、冬には灰色の風をまとって
けれど、何かのきっかけで、それは明日からは誰かほかの人のものになる。
そんなことはたくさんあるんだけれど、
忘れたくないのは、
それを心から惜しんだり、愛したりする気持ち。
昨日を大切に、明日を楽しみに想う、気持ち。
まあ、
そんな感じ。
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