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2016年5月17日 (火)

ある英雄の記憶①

「去年の秘儀Ⅲのような解説を書いてくれないか…」
と言う話をよく頂きます。
あれはあの曲がとっても素晴らしいので、また一見とても難解なので、自分の為にも深く読み込んだのであって、この「英雄の記憶」にはそれほど難解な部分もなく…
でも要望もあり、せっかくなので少しずつ書いてみようかと思います。
 
ストーリーーやらなにやらは以前にも書いたので割愛…
 
まず、前説的に登場する楽語+etc.について少々解説。
Eroicamente(エローイカメンテ、エロイカメンテ)
イタリア語の「eroica(英雄)」という言葉に「-mente(~のように)」をつけて形容詞のようにしたものです。僕の造語かもしれない…と思ったら案外認知されている言葉だそうです。
ben ten.=ben tenuto(ベン テヌート)
イタリア語の楽語です。benはbeneの語尾省略形です。つまり「しっかり音を保って」とってもよく使われる楽語です。 
 
en dehors(オンデォーr)※カタカナで書くのは難しいですね…。rは喉の奥を鳴らす感じ。アンデオールでもオンドゥオールでもいいかな。
「外に」と言う意味のフランス語です。「その部分を目立たせて」と言う意図でよく使われます。
「(客席に向かって)声を届かせる」と言う意味でオペラではよく登場する言葉ですし、「外側に(足を開く)」と言う意味でバレエでも使われます。というわけで楽語としても登場頻度は高いのです。
 
「こんな言葉初めて聞いた」「なんでわざわざ仏語で書くの?」と言う若い人がいるのは分かるけれど、指導する立場の人でもそんな人がいてびっくり。経験不足ですね。
吹奏楽では、その部分を際立たせたい時に、strident(金切り声のように)、brassy(金属的な強い音で)といった表記も良く見られます。また、forza(フォルツァ=強く)、fz(フォルツァンド=力をかける)、rf,rfz(リンフォルツァンド=強調、補強する)、sf,sfz(スフォルツァンド=強制する、振り絞る)等のイタリア語も、その部分を強調する意味でよく使われます。notevolmente(目立たせて)と言うのも使われる言葉ではありますが、より一般的な言葉としてen dehorsを選びました。
 
「この部分トランペットはもともとメロディなのだから、こんな言葉必要ないのでは?」
と言う人がいてちょっと悲しくなりました。
なぜ作曲家がその言葉を書いたのか、に心を寄せてほしいと思います。
この部分「G」の2小節前、「N」の2小節前、は音の洪水です。人の洪水です。
その雑踏の中で自分の存在を叫んでほしいのです。或いは、混沌の中でもがき叫ぶ様を描いて欲しいのです。
ホルンとトランペットにこの楽語を書いたのはそんな理由です。
 
Allegro con feroce(アレグロ コン フェローチェ)
allegroは「快活に」feroceは「激しく、勇敢に」と言う意味です。
allegroには「陽気に」という意味もありますが、ちょっとここではあてはまりません。どちらかと言うと速度のガイドとしての楽語として使うことの多い言葉です。ここでもそのように使い、feroceを付け加えました。つまり「アレグロのテンポで勇敢に」と言うことです。
feroceは「残忍に、凶暴に」の意味の方が一般的です。しかし、古くは「勇敢」の意味を含んでいたのです。つまり、凶悪に吹き荒れる嵐ではなく、嵐に勇敢に立ち向かう様なのです。
 
stacc.(スタカート、スタッカート)※余談ですが僕はイタリア語をカタカナで表記するならば「スタカート」が良いと思うのです。「alla(~のように)」だったら「アラ」。小さい文字は子音のみ。でも煩雑なので…(^_^)
staccは「分離する」と言う意味です。
「その音を短く切って」でも大体良いのですが、もう少し細かく言うと、「音と音を分離して演奏する」と言う意味です。
ですから、マルカート(減衰を伴う音)でもテヌート(音を保つ)で、音と音の間を断つ、でも良いのです。
ただ単に「音を短くする」とすると困ったことになると思います。
 
「音を短くする、ならば四分音符も短い音符で書けばいいのに」
と言う人がいましたが、まったく真意が読めないのですね…というか多分楽譜を読む経験が少ないのでしょう。
 
文字で表記してある、と言うことはすべての音に・(スタカート記号)が付いているのと同義ですから、音を長目にしたとしても音同士はきちんと独立してほしいです。
 
energico(エネルジーコ)
「力強く」と言う意味です。ただ、精力的に突き進む意味がありますので、自分で運命を切り開いていく、運命に抗う、エネルギーを込めてほしくてこの言葉にしました。
「上の音に向かってcresc.」と言ったエスプレッシーボをかけるのははっきり間違いです。
 
meno f =meno forte(メノ フォルテ)
menoは、よく使われるpoco(少し)の比較級です。
ですから「ちょっとフォルテを少なくして」、つまり「今までより少し弱くして」と言う意味です。「弱い」と言う印象は与えたくないが少し音量を落としたい時などによく使われる楽語です。
 
sonore(ソノーレ)
sonoはもともと「音」の意。「音をよく鳴らす、響かせる」と言う意味でよく使われます。
実は作曲家によって使われ方が結構違います。
「よく歌う」と言う意味に転じて、espressivo(エスプレッシーヴォ=表現に富んで)と混同して使われることがあるのです…

一般的にはespressivoは表現をするためにフレーズの頂点等の抑揚を使います。つまりちょっとしたcresc.やdim.を利用して感情を表現するのです。
しかしsonoreは「一つ一つの音をよく鳴らして」、つまりは「細かいespressivoしないで、一つ一つの音を均等に聴かす(強調して)」ということです。
僕もこちらの意味で使います。
もっと大きな範囲で、俯瞰で見ればそこも含めて大きなespressivoになるわけです…
このことはもう少し説明が必要かもしれませんね…指揮法の範疇かもしれません。
 
sfz=sforzando(スフォルツァンド)
前出の様に、その音を強調したい時によく使われます。
注意したいのは「その音」を強調したいのか「その部分全体」を強調したいのか、と言うところです。様々な作曲家がいろいろな書き方をします。リンフォルツァンドとスフォルツァンドとフォルツァンドを使い分ける作曲家もいます。(フォルツァートとかもありますね)
 
「G」の1小節前のTomをみてみると初めの音符にだけsfzが書いてあります。でもこの音符だけを強調してもあんまり意味がなさそうですよね。だとすると全体にかかっている、と考えた方が自然です。前出のen dehorsと同じような、目立たせる意味だと思われます。もちろんen dehorsとは表現の意味は違います。
 
Malinconia(マリンコニア)
「哀愁を持って」と言う意味です。英語のメランコリックと同じです。最近の作品ではあまり目にしない楽語かもしれません。
 
tenerezza(テネレッツァ)
「やさしさ、慈しみ」と言う意味です。最近のアメリカ作品でよく目にします。
 
piu f =piu forte(ピウ フォルテ)
「強いを強めて」つまり、「今までよりもさらに大きく」
 
Pochiss. piu mosso=Pochissimo piu mosso(ポキシモ ピウ モッソ)
poco(少し)よりも少ないのがpochissimoです。
piuは「もっと多く」、mossoは「動き」
「ほんのちょっと」「もっと多く」「動き」、「ほんのちょっと動きを増やす」、つまりは「ほんのちょっぴり速くする」と言うことです。
 
「見たこともない言葉です。こんな言葉必要ある?」
う~ん、割とよく出る言葉ですよ。あなたが見てきた楽譜にはたまたま出てこなかったんでしょう。勉強不足ですね。この言葉に初めて出会う人にきちんと教えてあげてください。
 
とはいえ…
「pochis.って必要?pocoでいいんじゃないの?」
う~ん…今見ると確かにそうかも…(^_^)
ほんの少しの変化にしてほしくて書いたのですが、pocoでも十分だったかもしれません…
でも、書いた時には自分の中から出てきた言葉なので変更はしません。
 
dolce(ドルチェ)
「甘い、優しい」と言う意味から「柔和に」と言ったニュアンスでよく使われる伊語です。
イタリアでは「お菓子、デザート」と言う意味でも通ります。
 
pochiss.rit.=pochissimo ritaldando(ポキシモ リタルダンド)
「ほんのちょっと遅くしていく」と言う意味です。
補足ですが、この部分「K」の前ではストレットがかかります。
ストレットとは英語で言えばストレス、つまり音量と速度の増加を伴う音楽の運びです。
ですからここのリタルダンドは多めです。
でも「J」がpochis.ならここも同じでないと楽譜上の整合がとれませんので…
 
a tempo(ア テンポ)
「テンポで」、「先ほどのテンポで」と解されることが多いです。
一般的にはTempo I(テンポプリモ)と区別され、速度変化後に元のテンポに戻すときに使われます。「K」の場合には「I」のテンポなのか「J」のテンポなのかわかりにくいので数値を書きました。つまり「I」のテンポと同じです。
 
cresc. poco a poco=crescendo poco a poco(クレシェンド ポーコ ア ポーコ)
少しずつ(だんだんと)音量を上げる
 
poco rall.=poco rallentando(ポコ ラレンタンド)
「ちょっと遅くする」
ritardandoもほとんど同じ意味で使われます。使い分けている作曲家も多くいます。
バルトークの曲のある部分などでは1小節毎に登場したりします。
ではどう違うのか…
「ritardare=遅くなる、ぐずぐずする」「rallentare=遅くする、緩む」と言う元の意味から表現のアイディアを得ることは可能でしょうね。
作曲家の意図を読んで演奏する、と言うのが大前提ですが…
僕のこの曲の場合「D」の前よりも「L」の前の方が感情の描写が強い気がしてrall.にしました。(「緩む」…は違いますね)
 
poco accel.=poco accelerando(ポコ アッチェレランド)
少し速度を暫増する
 
Soar!(ソアール!)
空に舞い上がる!と言う意味です。
しかし…
 
今回この曲を書くに際して、小難しい楽語、こねくり回した回りくどい楽語、マニアックな楽語は使わず、一般的な表記のみで書こうと決めました。
細かい表現は演奏者がしてくれれば良い、と考えたのです。
ここまで(僕が思うに)一般的な言葉ばかりです。
しかし、若い音楽家(中学生や高校生)は初めて目にする方も多くいたようです。
で、ここでの解説を試みたわけですが…
指導する人たちの中からもそんな声が聞こえてきて…
でも、有名な曲を読んでいると普通に出てくる言葉ばかりだからなぁ…
 
で、このSoar!
この言葉だけは一般的な楽語とは言えません。
それに、英語です。
古いフランス語からきた言葉のようですが…
実は僕はこの言葉が好きでよく使います。
僕はよく知らないのですが、吹奏楽(ライニキーやスウェアリンジェンetc...)で時々出てくる言葉だそうで、吹奏楽関係の方の方が馴染みがあるそうです。
でも、僕が思うにはこの言葉だけは楽語でもないし一般的でもないかもしれません。
 
Ancora eroicamente(アンコーラ エロイカメンテ)
「もう一度 英雄の様に」
ancoraには「もう一度」「さらに」という意味があります。
他のコラムでも書きましたが、解釈はいろいろあると思います。
基本的にはテンポの指示は含まれていません。

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