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2020年9月11日 (金)

カジムヌガタイ、或いは「キララ」南の島の雪女

かじむぬがたい
「風の物語」
てぃだむぬがたい
「太陽の物語」
ふしむぬがたい
「星の物語」

大切な人に、何の恩返しも出来ぬまま一年が経った。
北海道出身で、東京でも活躍し、うちなんちゅとして生涯を終えたその人。
いまはなかなか島に渡ることさえ簡単にはいかない…

僕が初めて沖縄に行ったのは1980年。
沖縄返還が1972年5月15日だから、まだ10年経っていない、そんなころ。
それからほぼ毎年、訪沖しているが、今年はどうにもままならない。
お盆もとうとう過ぎてしまった(今年の沖縄のお盆は8/31~9/2だった)

その人とお会いしたのは1990年。
僕はまだ指揮者などとは呼べない、何も知らないただの小僧だった。
師匠が指揮をする沖縄オリジナルの創作オペラに、副指揮として無理やり参加させてもらったのだ。
交通費と宿泊費は出していただいたものの、ギャラは無し。
朝はホテルで食事できたが、昼めしと夜めしは自費。
金のない僕は、昼は抜くことが多く、夜は朝食でくすねたパンやジャム。
時に運が良い日は、地元の方たちや先生たちにごちそうになることもあった。

沖縄本島での最終稽古の後、那覇、名護、etc...数か所を回って公演した。
オーケストラピット初稼働のホールもあったりしてアクシデントや面白いエピソードもあったが、旅公演はおおむね順調で楽しかった。
名護での本番の夜、作曲、演出、指揮、の諸先生方とともに、協力者でもあった今帰仁焼きの陶芸家の先生の家での宴の末席に入れていただいた。
仄かに昼間の温度を残した東屋で、泡盛を酌み交わしながら見事な今帰仁焼きの大皿に豪快に盛られた戻り鰹のタタキを食した。
気持ちの良い風が吹き抜け、月が明るく照り、宴もたけなわの頃、陶匠の先生が同席した男性に声をかけた。
「おい、なんか弾いてくれよ」
その男性は実はクラシックのギタリストだという。
何処からともなく陶匠が持ってきたギターはフォークギターでそれも弦が1,2本切れていた。
しばらくチューニングしてからおもむろに弾き始めたのは・・・アルベニス「入り江のざわめき」
(僕はこの曲を知らなかったので、その場では、一音も逃すまい、と記憶して後に曲名を探し出した)
月と星と風と酒と音楽と…
涙が止まらなかった。

時は遡るが、那覇で行われていた稽古のある日。
皆は昼飯を食べに街に出て行ったが僕は稽古場に残っていた。
楽譜の準備がある、ようなことを言い訳したような気がするが、要は金がなかったのだ。
水道水を腹いっぱい飲んで…なんて思っていたら声をかけられた。
「お金貸すよ」
その人は知っていた。
見るに見かねて声をかけた、というわけだ。
だが僕は断った。
「大丈夫です」

まあ、ばつが悪かったのもあるが、ただカッコつけていたのだと思う。
だがその人は数日たってもう一度声をかけてきた。
「夜、ホテルで時間があるならば頼みたい仕事があるんだ」

それは「写譜」だった。
弦楽アンサンブル(だったように思う)のスコアからパート譜を起こしてほしい、というのだ。
僕は言われるままに数日かけて写譜をして、そして2万円ほどのギャラを頂いた。
その時もうすうす気づいていた。
今ならはっきりわかる。
金もないくせに頑なにカッコつけるガキに助け舟を出してくれたのだ。

全公演が終了し、大きな打ち上げが終わった翌日。
師匠を含む東京組の帰京を見送った後僕は一人で、余ったお金で一泊し本島のあちこちを回った。
結果的にはさらにもう一泊し、現地の人に厄介になり、おばあとおじいに一晩かけてたくさんの「うちなーむぬがたい」を聞くことになるのだが、それはまた別のお話。

時は過ぎて、2018年。
僕は意を決してその人に連絡を取った。
一人前の指揮者になってからご恩返しをしたい、と思っていたのだが、いつまでも、きっとずっと僕は半人前。
そろそろきちんとご挨拶を、と思ったのだ。
驚きながらも快くお会いしていただいた。
那覇のホテルで昼食をご一緒しながら、僕は堰を切ったように話をした。
そして、あの時の2万円をお返ししたい、というと悪戯っぽく笑って、
「そんなもんいらねぇよ」
と切り捨てた。

いつかあのオペラを再演したいし、何かでご一緒して、一緒に音楽をやりたい。
僕のアイディアや夢も並べ、その人の話もたくさん聞いた。
その後、なんと奈良で僕も良く出演させていただいているホールで、万葉を題材にしたオペラもプロデュースしているのを知り、ますます共演の予感に喜んでいたのに…

中村透先生。
オペラ「キララ」
いつか必ず再演します。

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